日本の'05年体制

 小選挙区制が日本に定着し、自民党民主党による二大政党制が固まった。
 世界を見ても社会主義国は中国、北朝鮮ベトナム、東欧など少数となった。中国にしても体制は社会主義だが経済は市場経済を採用しているから北朝鮮のような社会主義統制経済とは異なる。
 このような情勢下で国民は資本主義の安定を実感し始めた。いわゆる’55年体制の終焉だ。
 そして国民の関心事は体制選択の段階を脱却し、資本主義の中での経済政策の選択に入った。経済政策の選択といっても所詮は自分の立場の擁護に終始する。その関心事とは、ちょうど油と水の混合液が二つに別れるように、国民の関心事はある事の違いを境に上下に分離する。
 その境とは経済的富の攻めぎあいだ。具体的に述べると貨幣財産のあるなしだ。早い話が財産のある層とない層のせめぎ合いだ。
 従来およそ5千万円を越える貨幣財産所有者はいわゆる保守層に帰属し、日本の社会主義化をブロックする役割を演じてきた。
 しかし近年、銀行の合併が進み1行1千万円の元本保証で総額5千万円の保証が危なくなってきた。おまけに郵便局まで民営化された。
 現在なら数行に分散預貯金すれば5千万円の保証はあるかのようにみえる。しかし近年雲行きが怪しくなってきたのだ。銀行の統合合併が進み3行程に集約されるのも長くはかからない。勢い預貯金の保証額も1人3千万円とか2千万円とかになってしまう。そんなことになったら5千万以上貨幣財産家にとっては一大事だ。
 そもそも預貯金が危なくなったのは年間35兆円にも上る国債の発行だ。しかし赤字国債を少なくすると経済成長が止まってしまう。かといってこのままのペースで赤字国債を発行し続けたら、国債価格が下落し金利が上昇してしまう。
 ではどうするか。選択は2つしかない。従来どうり国債を発行し続けるか、あるいは消費税アップだ。高額貨幣財産家は消費税アップを主張し、逆にそうでない国民は現行の国債増発路線を主張する。
 この3年間、高額貨幣財産家はじっと小泉政権赤字国債増発路線に我慢してきた。経済が立直りかけているのに消費税アップは言えなかったのだ。それが経済がほぼ回復基調に乗った昨今、もう赤字国債増発路線は嫌だと主張し始めたのだ。
 最近の某新聞社の世論調査でも、消費税アップ容認が50パーセントを越えた。一方消費税アップ反対の無財産家は意気消沈だ。先の小泉政権の圧勝選挙でパンチを食らわされ、頼みの社会主義政党は弱小し、民主党も年金財源に消費税アップを主張している。
 しかし民主党は消費税アップ反対の無貨幣財産家の声が大きくなるにつれ、彼等の意見を取り入れる方向に舵を切るだろう。結局消費税アップ反対の民主党と賛成の自民党との闘いとなる。
 共産党は無条件反対。公明党はアップ率を下げる役割をになうであろう。先回の衆議院総選挙で経済政策の成功が原因で自民党が大勝した形をとっているが、自民党への投票者は無意識で、消費税アップを望んでいたのだ。何年か前の参議院選挙では民主党が、年金資金とは言え、消費税アップをマニフェストに載せながらも議席を延ばした理由もここにある。
 '05年体制はある意味「活況」の体制だ。司法界では保守政権の安定が固まり、体制を危惧する必要がなくなり、裁判官の思いどうりの判決がだせるようになった。今後衆参選挙における定数問題にも裁判所は従来の慎重な姿勢とはことなり、思い切った判断を示してくるだろう。先の大阪高裁の「小泉総理の違憲判断」もその流れである。
 経済界では労働組合からの開放を勝ちとり、もはや経営者は労働組合に何の気兼ねもする必要がなくなった。労組対策から開放された経営者は、今後思う存分経営に専念することができる。そして優勝劣敗の経済原則に没頭することができるようになった。
 マスコミはもはや体制対立記事は魅力を失い、エンターテイメント路線に突入した。政治そのものをエンターテイメントとして扱うようになってしまった。
 ヨーロッパの中で一人イギリスが親米路線をとっているように日本はアジアの中で一人親米路線をとり続けるであろう。米英日連合と、独仏中連合のせめぎあいだ。
 さて話を冒頭の消費税問題に戻そう。衆議院議員の任期はあと丸4年ある。小泉総理の後継者が消費税アップを断行するのに何の障害もない。参議院で消費税アップ法案を否決しても、衆議院で3分の2を確保している与党はらくらく通過できるのだ。
 もはや消費税アップを食い止める手段はない。無財産家のできることといったら、与党に「お願いだから消費税を、せめて7パーセントか8パーセントに抑えて下さい」とお願いすることぐらいだ。
 こう考えると無財産者は救いがないように思われるかもしれない。確かに現実はそうであるかも知れない。しかし裁判所は幸い政府から独立していて、中立の立場で庶民を守ってくれる。またすっかり体制に擦り寄ったマスコミに対立して、インターネット・マスコミも発達しつつある。決して暗い未来ばかりではない。