人気政治手法の善悪

 小泉総理大臣は国民の評判を気にする総理である。内閣支持率で40パーセントを下限と捉え、40パーセントに近づいてくると、外交や経済政策を総動員させ人気回復に努めてきた。
 この手法はアメリカの大統領が従来から採用してきたものである。確かに内閣支持率が高ければいつ総選挙を行ってもまず負けることはない。また国民の支持率を後ろ盾に、大抵のことは主張を通せる。国民あっての政治だからである。
 しかしアメリカの例でみると、常に人気政策を採っていれば、永久に共和党とか民主党の政治が続くはずである。しかしアメリカ大統領の歴史は、ときどき政党が交代している。これはどうしてであろうか。
 人気政策の良いところは、国民の支持が高いため、悪政がなされていない証拠だから、いい政治が続けられている証拠である。善政に越したことはないのである。
 ではマイナス面は何であろうか。ここがポイントである。
 ここで内閣支持率とは短期的視野での支持率のことである。決して10年先、20年先を見越した支持率ではない。目先の人気投票なのだ。
 例えば、家庭での話で考えてみたい。
 ある旦那さんが、奥さんに内緒で借金をしてお金を工面したとしよう。そして旦那さんは奥さんのため、美味しい食事や高いブランド品を買ってあげたとしよう。当然旦那さんに対する奥さんの評判は高くなる。
 しかしいつまでも借金は続けられない。いつかは家計が破綻するわけである。そのときは、奥さんは今までのことはすっかり忘れ、旦那さんを叱咤するであろう。旦那さんの評価は最低となる。夫婦の危機を迎えるであろう。
 このことを政治に当てはめてみよう。小泉総理は就任以来、毎年35兆円ほどの借金を重ねている。お金の捻出先は、国債の発行である。国家予算の3分の1強のお金を毎年借金しているのだ。国債の先をたどれば、国民の預貯金である。
 国民からしたら、年間35兆円の借金を、税金からとったらどうなるのであろう。当然消費税だが、35兆円を消費税に換算したら15パーセントほどに相当する。だから国民にとってこんなありがたい総理大臣はいない、と大人気なのだ。小泉総理は任期中は消費税を上げないと公約している。こんな総理は神棚に飾っておきたいくらいありがたいのだ。
 しかしこの政策はいつまでも続けられない構造を持っている。国債金利上昇という危険要素を持っているからだ。金利が1パーセント上昇すると、仮に800兆(債務総額)の借金だとすると、金利の上昇分だけで8兆円にも登る。消費税に換算して3パーセントほどだ。
 またお金持ちの層からも不満が出てくる。なぜなら数千万円貯金している人は、その額の何割かは引き出せない性質のものだからだ。もし大勢の預金者が一斉に大金を引き出したら、その現金を用意するため紙幣を大増刷しなければならない。そんなことしたら大インフレがおこってしまう。
 だからお金持ちの層は、消費税をもっと上げろと要求する。要するに歳入の不足分を、消費税からとるか、高額預金者の預金からとるかの二者択一問題だからだ。
 小泉総理は国民に大判振る舞いをして人気を得てきた。しかし、そんな借金政策が何年も続けられない構造になっているのだ。だから内閣支持率40パーセントをいつまでも維持はできないのだ。いつかは増税政策をとらざるを得ない。そのときは、必ず内閣支持率は40パーセントを割り込むのだ。
 アメリカでは、内閣支持率が低下し始めると、ときどき戦争を始めた。そうすることで目先の関心をそらすのだ。大統領選挙まじかに戦争を始めれば、大統領選挙中は戦争が継続しているから、国民も大統領を続けて支持せざるを得ず、結果として引き続き大統領を続けられるという仕組みだ。
 さて日本ではどういった目くらまし政策が考えられるであろうか。小泉さんは「構造改革」という作戦を編み出した。しかし国民は構造改革増税を天秤にかける。そして増税がたまらないと判断したとき、内閣の支持率はドンとさがるのである。
 アメリカ大統領の例では、経済政策と戦争による自国民の犠牲者数を天秤にかけるのである。
 先の衆議院総選挙で大衆は、消費税を上げずに、うちでの小槌のように財政支出をばら撒いた小泉総理にはヤンヤの喝采を送った。その財政支出の原資が、やはり国民の預貯金であっても、それは当面の問題ではないから良しとしたわけである。
 しかしそろそろ消費税アップとか増税の話題がちらほら聞かれるようになってきた。小泉総理は任期延長はないと明言しているが、明言しようがせまいが、そろそろ人気下降局面に入ったと私は見る。