君が代

数年前中央アフリカを訪れていた。ケニアの首都ナイロビに暫くいた。ナイロビは、アフリカではカイロにつぐ街で、街なかの賑わいは活発だ。
少し時間があったので、映画館に入った。8割ぐらいの入りだったろうか。上映時間になり、ブザーが鳴り響いた。
次の瞬間、座っていた観客が一斉に立ち上がった。私は何事が起こったかと、目を白黒させる。やがて館内に音楽が流れ始めると、立ち上がった観客は歌を歌い始めた。そう、国歌斉唱が始まったのだった。
私は、警備に逮捕でもされたら面倒なので、立ち上がりはした。周りの観客がスワヒリ語で国歌を歌っているのを聞いて、日本だけはこうなりたくないものだと思った。そのときは、発展途上国ケニアらしい、と半ばその光景を鼻で笑っていたのだが…。
さてその日本だ。先般広島県教育委員会が、小中高の校長に、君が代を歌う際の生徒らの声量を報告させるよう指示していたことがわかった。立ち上がって歌うのは当然。歌うときは声を張り上げて歌え、と言わんばかりだ。
いよいよ日本もアフリカ並になってきた。日本の右傾化が静かに進行しているのだ。
以前の国会勢力図は、自民党社会党であった。その合成ベクトルの結果として、中道の政策が基本だった。ところが今は、自民党と、中道の民主党の拮抗勢力だから、結果として、かなり右寄りの政策が取られるようになった。今回の中国での反日デモも、そんな背景があったのかも知れない。
もうじき日本も、映画館で君が代を歌わなければならなくなるのか。その次は、再びアジア諸国に、兵を進めることのないよう、願うばかりだ。