郵政民営化と民主党

郵政民営化法案は不思議な法案だ。提出した自民党でも党内対立が起き、一方の民主党でも、表立った対立は見えないまでも反対派と国会審議への参加賛成派との対立が潜在している。
ことの発端から見直してみよう。小泉内閣がこれほどまでに郵政民営化に熱心なのはなぜか? 私の推測では、小泉総理の国粋的思想と関係がある。歴史認識でも明らかなように小泉総理は靖国神社参拝に積極的だ。イラクへの自衛隊派遣、対韓国、対中国政策を見ても右よりの姿勢は明らかだ。ではその国粋的姿勢と郵政民営化がどう繋がっているのだろうか。私の意見では、ずばり全逓信労働組合解体への意図を心に描いているのではないか。そう推測すると全てが説明できる。
中曽根元総理国労動労解体に成功したことを参考にしていると見る。ただ中曽根氏も国粋的であったが、中曽根氏の場合対中国への歴史認識では、ちゃんと過去の過ちを認め、過去の歴史を繰り返さないことを宣言しているから小泉総理とはえらい違いである。小泉総理の「内政干渉」の立場と何が異なるのだろうか。
私の解釈では、中曽根氏は軍隊経験があるから、中国に対して日本軍が何をしたかを良く知っていたと思われる。歴史事実を知っていればこそ、正しい歴史認識ができていたのだと思う。
小泉総理の場合は、余り歴史事実を知ろうとしなかったのではないかと思われる。一般的に言って国粋的主義者は自分の都合の悪い歴史事実は知ろうとしないものである。
小泉総理が、対組合対策に関心があるとすると、逆に全逓信労組が火のようになって怒るのが想像できる。
事実、全逓信労働組合をはじめ、バックアップする連合は現在打倒小泉、打倒郵政民営化で燃え滾っている。
組合員700万を抱える連合を支持母体に持つ民主党にとっても天下の一大事である。連合から激しい突き上げを受けた民主党は、今回審議拒否作戦に出た。しかし審議拒否で何が得られるのか? いま世論は、民主党が国会審議拒否作戦に批判が多い。その国民世論を無視してまで何故民主党は審議拒否作戦に出たのか。
ここで不思議な光景があった。審議拒否作戦の真っ只中、党首の岡田氏は某会合を昼食会に招かれていたのだ。そこで岡田氏は審議拒否を記者から聞かれ、「現在担当者に任せているので……」と言葉を濁しているのだ。一体どうなっているのだ?
岡田氏にとって、連合が火のようになって怒っているいる。だから連合の勢いに任せるしかないと踏んでいるのだ。では連合は何を要求しているのか? 
郵政労組連合の連合の会長はこんな発言をしている。

笹森清会長
 公社法では、「民営化などの見直しは行わないこととする」「職員の身分は公務員とする」などと規定されているにもかかわらず、閣議決定で無視され、総理はただ民営化を叫んでいる。法律を制定した政府自らが誤りを犯している。
 それぞれが地域・家庭の中で本気で闘っていこう。

こう言っているのだ。郵政民営化法に反対だが、具体的な項目に言及している点が注目だ。公務員から私企業の労働者になることは、何かにつけて待遇が下がるから、認められないと述べているのだ。
当然民主党執行部もこの要求を、自民党にぶつけているはずだ。そうすると審議拒否の間に自民党と条件闘争をやっているのでは? との疑問がふつふつと湧きあがるではないか。
郵政民営化法案は自民・公明の単独でも国会は通過する。だったら裏交渉でもいいから取れるものは取ろうと考えたのだろうか? 確かに実利を取るのであればそれもいいだろう。
しかし民主党にとって今が正念場でもある。ここで実利を取って、市民層に「あ、かっての社会党と同じだ!」と思われてもいいのか? 
民主党にとって国会の審議の場で堂々と議論しても主張する内容は同じだ。支持母体に連合を抱えているのだから同じになる。だから民主党内で郵政職員の公務員から私企業労働者への移行について議論が必要だ。当然既得権もあるだろう。給与保証の問題もあろう。リストラも起こるかも知れない。これらの諸問題をオープンにして、国民の理解を得つつ、条件交渉をするなら国民も労働者の立場が分からないわけでもないから理解は得られるだろう。いや得られないかも知れない。しかし不信を買うことは避けられるだろう。
確かに状況が難しいのは理解できる。しかし自民党内だって、反対派を説得して進めているわけではない。強硬突破に近いものがある。それにもかかわらず国民の間で大反対が起きないのは、国民は自民党が何を行おうとしているか良く分からない。しかし民営化の方向は時の流れだから「まあいいんじゃない」と思っているのだ。
また郵政労働者が公務員から私企業の労働者に変化することも、「公務員は私企業に比べて年金とか待遇で良すぎるのではないの」と思っているから、民主党郵政民営化反対の意見に対しても、かならずしも民主党に賛成というものではない。
ただ民主党にとって最悪なのは、民主党党首がふらついていることだ。全逓信労組の肩を持っているようでもない。かといって労組と対決して市民派の立場を貫いているでもない。実務レベルで審議拒否を具申したから、その流れに乗っているだけだ。
この点自民党の党首は、わき目もふらず郵政民営化に突進しているから分かりやすい。勿論その真意が、全逓信労働組合解体に仮にあったとしても、民主党だってその自民党の動きに対し真正面から論争するのではなく、審議拒否しつつ影で交渉している(と思われる)から同罪だ。
もう一度復習しよう。民主党は今回の本質を全逓信労働者の待遇ダウンについて自民党と闘争しようとしている。そのため労組の問題だから堂々と国会審議するのは気がひける。だから審議拒否をして、その間に国体レベルで交渉し少しでもいい条件をひきだそうとしている。そして国体レベルでの交渉が済んだら、審議参加する。
今回の民主党のシナリオはこうではないだろうか。
そして私の結論を述べよう。
裏取引は国会審議に参加してもできる。もし民主党が連合の支持母体からの圧力を無視できなかったら、その関係するの議員はその動きをすればいい。しかしそうではない市民派の議員もいるはずだ。国会審議に参加して市民派の議員らに正々堂々と議論をさせればいい。
今のような審議拒否は、支持母体による党議拘束状態だ。これは民主党の市民カラーを組合カラーに塗りこめる役割しか果たしていない。マイナス以外のなにものでもない。
小沢副代表は、本来は労働組合議員の動きに反対の立場だ。しかし今回は連合が、頭から湯気をたてて民主党をつついている。これには小沢氏も「連合の言いたいてんも分かる」と少し審議拒否に理解をしめしているようにも見える。
状況が難しいのは分かるが、のんきに昼食会に招かれ、他人事のようなコメントを聞かされると、私もついつい落ち込んでしまう。党首はいつも燃えていて欲しい。