’05総選挙の総括

 選挙は実績の評価を問う国民の判定である。決して将来展望の案の判定ではない。勿論政党マニュフェストは大事だ。しかし実績は事実の積み重ねであるから、前回のマニュフェストの検証の意味もあり、最重要点だ。
 この観点から、過去三年間を振り返ってみる。
 先ず民主党は、何を実行したのか、探さなければならない程少ない。スエーデン方式の年金案以外に見当たらない。一体民主党議員は過去の三年間、何をしていたのだろうか。
先の郵政国会では、党内議論もせぬまま、場あたり対策に終始した。総選挙に入り管直人さんが郵貯簡保の縮小案を発表したが遅すぎるし、部分的過ぎる。
 一方自民党は経済政策の成功が大きかった。不良債権問題をほぼクリアーした実績は評価されてしかるべきだろう。景気が上昇曲面にあるのも味方した。
 財政でいうと年間予算の約35兆が国債だ。借金である。この借金財政を非難するひとがいるが、庶民からすると、こんなありがたい政策はない。
 何故なら、もし35兆を消費税に換算したら15%になる。言い換えれば本来20%の消費税を払うべきところを、現行の5%で済んでいるのだから。
 ではそのぶん誰の負担になっているかと言えば、それはお金持ちの預貯金だ。例えば3千万預金しているかたは2千万を取られたと思って間違いない。
 え?3つの銀行に分散すれば3千万円が保護されるのでは? そう言われるかたは甘い予測だ。3千万も保護していたら、国債を発行しきれなくなる。だから将来は銀行口座の名寄せが行われて、10年後には1人1千万円の保護となるだろう。
 またこの観点からも政府にとっては郵政民営化は必要だったのだ。郵貯に政府保証をつけていたら、踏み倒しができないではないか。
 一般のかたは金融機関で民間も政府系もみな同じだと思っておられる。
 しかし中小の事業経営者は骨身に浸みて民間銀行の非情さを知っている。本当に頼れるのは政府系金融機関だけだというのは経験則だ。こと金融に関しては郵貯は信頼できるのだ。
 民間銀行で1千万、郵貯で1千万、合計2千万円の貯金保護があるところ。それが郵政民営化で、総額1千万の保護となるのだ。しかしそういった高額預金者が郵政民営化に賛成されていたのだから問題なしとしよう。しかしおせっかいかもしれないが、何千万円の預貯金のあるかたは郵政民営化に関心を持つ前に自分の蓄えの心配をしたほうがいいのでは、と思ってしまう。
「そんな馬鹿な。私の銀行預金が危ないなんて」とおっしゃるかた。ちなみに全員が預金を引き出してごらんなさい。翌日、日本は音を立てて倒れます。
 ともあれお金持ちに負担を負わせる自民党の政策は大衆に受けないはずはなかった。
大衆が関心があるのは、景気、物価、税金の3点だ。このどれもが、まずまずのポイントをかせい自民党が総選挙で勝利するのは、ごく自然なことだ。
 だから民主党の敗北を、岡田党首の能力不足、選挙戦術のまずさ、労組の支援の弱さ、民放テレビ局が自民党をサポートしたこと、などをあげることはできるが本質ではない。
 そもそも今回の総選挙はやる必要のない選挙だった。仮に次の国会で郵政法案が衆参両院で通過したとしよう。その時、「やっぱり選挙をやったから成立した」と言われるかたがいよう。
しかし先の国会で、衆議院では郵政法案は通過し、参議院でも自民公明で過半数を持っていたのだ。党内議論を尽くせば、ごく自然に通過していた法案なのだ。
 だから今回の総選挙が終わっても、以前と何も変わることはない。1ヵ月前の状態に戻っただけだ。高い観劇料を払って「刺客劇」を楽しんだだけだ。
 今回の総選挙で変化あったことと言えば自民、民主両党とも、支持基盤があいまいになりつつあることだ。
 民主党は今回、連合が動くかにみえた。笹森会長は郵政法案の恩義もあり、民主党を無条件支持した。
 しかし下部組織が必死に動いた形跡はない。それは民主党が少しずつ市民政党になりつつあることを感じ始めているからだ。
 早い話、労働組合の存在感が薄れつつあるのだ。事実、企業のリストラに対し労組は無力だ。労組の役割があるとすれば、退職手当の交渉をする程度だ。リストラそのものの抵抗機関ではなくなっているのだ。
 このことは民主党を市民政党に変化させる要素だ。民主党は今労組依存政党から市民政党に変わる転換期にあると言える。
 一方の自民党も、従来の農協、漁協や中小企業組合からの基盤政党から脱却しつつある。両党とも市民政党への舵取を余儀なくされている。
 従来は固定支持基盤があったから、日常の政党活動での甘さは許された。今後はその都度、激しい批評に晒されるのを覚悟しなければならない。日常の政治活動の報告ツールにおいても、インターネットの動画配信が今後使用されるであろう。(民主党にとっても、今回の選挙で動画配信を大々的に利用していたら、時代の先取りと讃せられたであろうに。)
 今、外国資本の進出が著しい。生命保険業界はその波をまともに被った。次に狙われているのはサラリーマン金融業界だ。既に既存サラ金会社を買収して、低利融資に乗り出している。 まさに「金融黒船」の来航だ。郵便貯金からあふれ出すであろう資金をめぐって金融界はまさに黒船騒動のはじまりである。
 しかし他方、メキシコ湾ハリケーンが吹き荒れた後、ニューオーリンズの街での略奪風景を目にすると、殺伐とした気持ちになる。その同じアメリカ人が、イラクでどさくさに紛れて、同様な行為をしていない保証はない。私の思い過ごしであろうか。