裁判所の爆発

 永い間、最高裁を初め下級裁判所は欲求不満にあった。本来は法理論にのっとって憲法判断を下したかったのだろう。それができなかったのは、裁判所も日本国の実情をを考慮していたのだろう。裁判所の判断が、現保守政党を転覆する手助けになるのをずっと避けてきたのだ。
 それが今回の小泉自民党の大勝で一気に開放されたのだ。またどうも二大政党時代というものが日本に根付いたと実感しはじめたらしい。そうなれば誰に遠慮もなくなったのだ。法理論に基づいて憲法判断を下せばいいと思い始めた。
 先の、外国在住の日本人の選挙権行使の違憲判断も、その流れからきている。また今回の下級裁判所による、「靖国参拝違憲論」もその流れだ。特に今回の大阪高裁の靖国違憲判断は、先のライブドアの時間外買い付け劇に似ている。
 それは政府の最高裁上告ができないことを承知の上での違憲判断を出したのだ。勿論訴えた台湾人が上告しなければの話だが。なぜかというと、今回の大阪高裁の案件は国側の勝訴だから、国側は上告できないのだ。だからもし台湾人が最高裁に上告しなければ、大阪高裁の判断が確定する。すなわち小泉総理大臣の過去数回の靖国参拝違憲とすることが確定するわけだ。
 そもそも小泉総理大臣は、ものごとをはっきり言わない主義の人だ。確かにはっきり言わないほうが、その責任は曖昧になる。のらりくらりと答弁していればその場は取り繕えるのだ。その小泉総理の曖昧な姿勢は誰も非難できなかった。民主党も数では非力だから、どうにもならなかった。日本のマスコミはすっかり自民党に言い含められているから、彼の姿勢を非難すらしない。
 小泉総理にとっては、とんだ伏兵に出くわせた。大阪高裁での靖国参拝違憲判断が出された直後の総理へのインタビューで、総理は「まだ最高裁がありますから」と答えていたが、今回は事情が違うのだ。小泉総理にすれば、最高裁に持ち込まれれば、最高裁判事は保守が多いから、違憲判断は取り消されると読んでいたのだろう。
 問題は今後だ。今まで違憲の可能性があるにもかかわらず、曖昧な判断を示してきた最高裁の、選挙における定数問題がある。衆議院選挙ではほぼ2倍の1票格差を限度とする判断を、今後は厳格に貫くであろう。ひょっとすると、定数是正を行わずに次の総選挙を行おうとすると、その行為を違憲と判断する可能性が出てきた。
 今の自民党は単独でも衆議院の3分の2を持っているから、ちゃんと選挙法を改正しなさい、との暗黙の指示だ。そして今まで最高裁がためらってきた問題も数々ある。それらが今後、堰を切ったように判断されるであろう。
 議員だって法律違反を犯したら、もはや議員の資格はなくなる。それが憲法違反を犯したとなったら、犯した議員(この場合総理大臣だが)はもはや議員ではいられないはずだ。もし台湾人訴訟者が今回の大阪高裁の判決を上告しなかったら、小泉総理大臣の靖国参拝憲法違反ということが確定する。
 今まで小泉総理大臣は自分を織田信長に例え、明智光秀の登場に細心の注意を向けてきた。今回の総選挙勝利で、当面明智光秀の謀反役はいないと思った矢先の出来事だ。もし大阪高裁が明智光秀になったら、超面白いことになってくる。
 そうか。国会で小泉総理が「人生いろいろ、会社もいろいろ…」と人を小馬鹿にしたような答弁を行ったことがある。民主党の質問者もその言葉を訂正させる力はなかった。テレビ新聞もマスコミは、もはやマスコミとしても使命そのものを失っている。だれも小泉総理にたてつく者はいないと思っていた。それがいたのだ。裁判所の控え室でじっとテレビをみていて「調子こいとるな。総理だったら総理らしく真面目に答えろ」と呟いていた人たちがいたのだ。裁判官達だ。 
 小泉信長はいま、やっと敵の存在を感じつつある。